虫歯
むしば
〔歯科〕
原因
虫歯は、私たちにとって身近な歯の病気です。簡単にいえば、口の中の細菌によって食べ物の残りかすから作られた酸が、歯を溶かしてさまざまな炎症を起こす病気です。歯は、外側からエナメル質、象牙質、歯髄という3重の構造になっており、徐々に進行していきますが、象牙質に達したあたりから痛みを伴うようになり、進行も一気に早まります。
虫歯のできるメカニズムは、まず歯垢がたまってくることから始まります。歯垢は、歯の表面に沈着した食べ物のかすや死んだ上皮細胞等の軟らかい薄い膜などからできる歯の汚物で、歯の溝や歯と歯の間、歯肉との境目に多く見られます。歯垢の中にはいろいろな種類の細菌が多く住んでいて、私たちが食べる食べ物によって生き続け繁殖しています。歯垢に住む細菌は、食物中の糖分を栄養分として酸を作り出すので、歯垢の中には次第に酸がたまってきます。
このように、歯垢に住む細菌により酸が作られる結果、歯垢の酸性度は増しますが、そのままどんどん濃度が濃くなっていくわけではありません。唾液によって酸が薄められたり中和されたりして、時間の経過とともに歯垢の酸性度は元の状態に回復します。
こうした現象が、食事のたびに繰り返されているのですが、歯垢が厚く積もってくると唾液が歯垢の深いところまで染み込むのに時間がかかり、中和されるまでの時間も長くかかるようになります。つまり、歯垢が厚くなればなるほど歯垢の底では歯のエナメル質が酸に浸されている時間が長くなり、ついには丈夫なエナメル質も溶け出してしまうのです。この結果、歯に穴があいて虫歯が進んでいくことになります。
症状/進行度
虫歯が始まっても、すぐに痛みや水がしみるといった症状が出てくるわけではありません。虫歯の進行でエナメル質に穴があき始めても、エナメル質の中にとどまっていれば痛みなどの症状はほとんどありません。やがて病巣がエナメル質を過ぎ、象牙質から歯髄に近づくと、水やお湯がしみたり、痛んだりします。
歯痛は、歯の中央部の歯髄にある神経が、刺激されて起こるのです。
歯の痛みは、虫歯が歯髄に近づくほど強くなりますが、細菌が入って歯髄が死ぬと一時的に止まることがあります。しかし、すぐに炎症が広がるので再び激しく痛み出し膿がたまってきます。
虫歯は進行度によって、以下のようにC0~C4の5段階に分けられています。
C0は、要観察歯の段階で、自覚症状はほとんどなく、歯の表面や溝にわずかな変化が見られる状態です。
C1は、エナメル質が黒っぽくなったり、濁っているのが肉眼で見える状態ですが、痛みはほとんどありません。
C2は、虫歯がさらに進行し、象牙質にまで達した状態です。穴の周りは黒っぽくなっています。食物が虫歯の穴に詰まったり、水やお湯などがしみて痛みを感じるようになります。この段階では、外側から見える穴よりも内部のほうがかなり広くなっていることが多く、実際は見た目以上に侵食部分が大きくなっています。痛みが強ければ強いほど穴の先端が歯髄に近いと考えられます。
C3は、象牙質を通過して虫歯が歯髄にまで達した状態です。この段階では、ちょっとした刺激で激痛を感じたり、刺激がなくてもズキズキ痛むようになります。
C4は、歯の上の部分(歯冠)がすべて溶け、根だけの状態になっています。歯髄が死んでいるため、自発痛はあまりありません。歯髄にあいた穴の中では腐敗が始まり、膿がたまってきます。歯根の先が腫れて、歯肉などから膿が外に漏れてくることもあります。
治療
いったん虫歯になると自然にはなかなか治りません。鎮痛剤は、あくまでも一時的に痛みを抑えるものであり、歯科医の治療を受けなければ根本的な治療にはなりません。
C0やC1の治療 現在は歯を削らない治療法が多くなっています。エナメル質の損傷だけであれば、元に戻すことが可能だからです。フッ素を含んだ歯磨き剤やうがい薬を使ったり、唾液の分泌を促す方法で再石灰化(酸によって溶けたエナメル質を再び元どおりにすること)を図ります。
C2の治療 症状がお湯や水が少ししみる程度の場合は、虫歯の部分を削り取り、金属や合成樹脂などで埋めます。前歯など外から人目にふれる部分は、歯と同じ色をした合成樹脂が使われます。奥歯などには力もかかるので、摩耗の少ない金属の材料が使われるのが一般的です。
C3の治療 虫歯はかなり進んで、歯髄にまで及んでいるので、まず歯髄の処置をします。歯髄が炎症を起こしているときには、多くの場合、歯の神経を抜く必要があります。歯髄を除去した後には空洞が残りますので、消毒して埋めます。土台部分は、完全に治療しておかないと、その上にいくらよい材料をかぶせても、うまくものがかめないなどの不具合が起こります。歯の土台部分の治療が終わったら、歯の上の部分の欠損状態に合わせて金属や合成樹脂などで加工し、その上に金属による冠をかぶせます。
C4の治療 治療をして、歯根(歯の根の部分)がまだ使える見込みがあれば、C3のときと同様に修復を行います。C4の歯はC3より欠損が大きいので、修復物を根の中にしっかり止めるために、歯根と歯冠をつなぐ芯をつくってから冠をかぶせます。
しかし、C4の多くの場合、歯の根そのものまで使えなくなっているので、抜歯をします。抜歯をすれば、その欠損部を補う処置が必要になります。これにはブリッジ法、インプラント(さし歯)、義歯(入れ歯)などがあります。
予防
虫歯を予防するためには、歯が細菌に攻撃をされるのを防ぐことと、歯自体の抵抗力を高めることが必要です。そのために最も重要なのは、歯を磨くことです。1日1回、3~4分程度の時間をかけてていねいに磨くだけでも、十分に歯垢を取り除くことができます。特に、甘い物には細菌の増殖を助ける糖分が含まれているので、甘い物を食べた後は、うがいをしたり歯磨きをすると虫歯の予防になります。
ただし、歯の磨き方も正しく行わないと効果が上がりません。横磨きや縦磨きは正しい磨き方として、歯ブラシを回転させながら磨くローリング法が奨励されています。また、歯の根もとや歯ぐきは磨くのがおろそかになりがちですが、むしろ歯垢がたまっている部分なのできちんと歯ブラシを当てて磨くようにします。
歯を丈夫にするのには、フッ素が有効です。フッ素は子供の時期に摂取すると、歯のエナメル質を強くします。また、歯に直接フッ化物を塗布する方法もあります。