胃潰瘍
いかいよう
〔消化器科・外科・内科〕
原因
胃は、食べ物を消化するために、塩酸やペプシンなどを含む強力な消化液である胃液を分泌しています。胃潰瘍は、この胃液が何らかの原因によって過剰になり、食べ物だけでなく、胃自身を消化するように働いてしまい、その結果、胃の粘膜やその下の筋肉がただれたり、えぐれたりする病気です。十二指腸潰瘍とともに、消化性潰瘍と呼ばれています。普段、胃自身が胃液に溶かされないのは、胃の表面が粘液で覆われているからです。
胃液に含まれる塩酸やペプシンは、攻撃因子と呼ばれます。胃液を分泌する壁細胞、主細胞の数、食べ物などの刺激も攻撃因子に含まれます。これに対し、粘液は防御因子です。防御因子には、ほかに粘膜の抵抗や、粘膜の血流があります。これら攻撃因子と防御因子のバランスが保たれることによって、胃を傷つけることなく消化活動が行われるわけです。
しかし、このバランスが崩れて、防御力よりも攻撃力が勝ってしまうと、胃液は胃の粘膜やその下の筋肉などの組織まで溶かし始めます。防御力よりも攻撃力が勝るのは、胃液の分泌が過剰になったときだけには限りません。胃液が正常に分泌されていても、粘膜の抵抗力が弱まれば、攻撃力が優位になってしまいます。
実際、胃潰瘍の患者には、胃液が正常か、むしろ分泌量が少なくなっているケースが少なくありません。それでも胃潰瘍が発症したのは、何らかの原因によって、防御力がひどく弱まった結果と考えられます。防御力が弱まるのは、胃の粘膜の血液循環が悪くなったり、粘膜の抵抗力が低下したときです。これは、自律神経やホルモンの働きが悪くなったときに起こる現象です。自律神経やホルモンの働きを崩す最大の原因はストレスです。
こう考えていくと、胃潰瘍は、ストレスに対する体の反応ととらえることができます。ストレスは、生活環境や性格をはじめ、さまざまな要素が関係して強くなります。
胃潰瘍の発症を、攻撃因子と防御因子の力関係で説明するものを天秤説といいます。攻撃因子を優位にたたせる要素として、ストレスや、栄養障害、感染、体質、性格などがあげられます。潰瘍の再発とヘリコバクター・ピロリ菌の感染には、関連があることが明らかとなっています。
症状/合併症
胃潰瘍の患者がよく訴える症状は、みぞおちや腹部の痛み、胸やけ、げっぷ、嘔吐などです。高齢者を中心にした1割程度の患者に、吐血(潰瘍から出血して血を吐く)や下血(便に血が混ざる)がみられます。
痛みの症状の程度は、激しい痛みから、なんとなく痛いような感じといった程度まで人によってさまざまです。なかには、潰瘍ができていてもまったく痛みがないまま治ってしまい、健康診断などでたまたま潰瘍の傷あとがみつかるというケースもあります。胸やけについても、ムカムカした不快な症状が続く人もあれば、なんとなくすっきりしない程度の人もいます。
胃潰瘍がひどくなると、合併症が起こります。合併症には、大出血(吐血、下血)、穿孔、狭窄(通過障害)があり、これらを3大合併症と呼びます。
吐血や下血は、胃潰瘍の代表的な症状の1つです。しかし、大出血となると単なる症状では済まず、顔面蒼白、発汗などがみられ、血圧の低下、意識喪失などがあって、ショック状態に移行するケースがあります。最悪の場合は命にかかわります。
穿孔は、潰瘍が深くなり、組織に穴が開く症状です。穿孔が起こると胃の内容物が外に出て腹膜炎を起こすこともあります。このときの痛みは激烈で、倒れ込んでしまいます。
胃の出口付近の胃潰瘍が繰り返し起こると、食べたものが十二指腸に流れにくくなります。これが狭窄で、手術が必要になることもあります。
胃潰瘍の症状は食事との関連が深いことが知られています。とくに痛みは、空腹時により強い傾向がみられます。また、精神的ストレスや過労、不規則な生活、睡眠不足などがあると、症状が強くなります。
検査/診断/治療
胃潰瘍の検査は、エックス線検査と内視鏡検査の両方で行うのが確実です。
また、患部の組織を採取して顕微鏡で観察することによって、診断はより正確に行えます。細胞の検査をすると、胃がんなどほかの病気と鑑別することができます。この検査で胃がんがみつかることもあります。
治療法には、安静療法、食事療法、薬物療法があります。
安静療法は、胃潰瘍を悪化させている精神的ストレス、肉体的負担を取り除く目的で行います。できれば仕事を休んでのんびりします。食事療法では、とくに厳しい食事制限は必要ありませんが、全体にバランスのとれたメニューにして、栄養をとるようにすることが大切です。
薬物療法では多くの場合、胃を守る薬と、胃潰瘍を悪化させる因子を抑制する薬を併用して治療が行われます。胃潰瘍の薬のなかで代表的なものであるH2ブロッカーは、胃を溶かす作用のある胃酸の分泌を抑える薬です。胃酸の分泌を抑えることは、潰瘍の治療だけでなく、予防にも効果があります。難治性潰瘍や再発予防のためには、ヘリコバクター・ピロリ菌の除菌が有効なことがあります。
薬を飲めば短期間に症状がやわらぎますが、それは、必ずしも潰瘍が消えたことを意味しているわけではないので、注意が必要です。多くは8週間程度で治りますが、再発も多いので、治ってからも薬を飲み続ける場合があります。医師の指示にしたがって、検査を受けながらきちんと治療を続けることが大切です。
出血がひどい場合には、内視鏡やレーザー光線などを使って止血を行います。内科的治療が効かないときや、合併症があるケースでは、手術を行う場合もあります。
生活指導
胃潰瘍は再発の多い病気です。せっかく治療をしても治ってから1年以内に再発する患者がとても多くなっています。治ったからといって油断せず、食事に気をつける、タバコやアルコールを避ける、といったことを忘れないようにしましょう。
具体的には、刺激の強い食べ物や飲み物、たとえば香辛料の効いたもの、酸っぱいもの、辛いもの、コーヒー、熱すぎるもの、冷たすぎるものや、消化に時間がかかる油や脂肪、ステーキ、やきいも、かためのご飯などはなるべく避けるようにします。
食べ方の注意としては、食べすぎを防ぎ、食事の回数を増やして一度に食べる量を減らす工夫が必要です。また、ゆっくりよくかんで食べると、胃の負担を軽くできます。食べる前に細かくきざんだり、よくゆでたりすると、量の割に消化しやすくなります。参考として胃潰瘍を予防する食品をあげます。
また、精神的ストレス、疲れが蓄積しないよう、おだやかな暮らし方を心がけましょう。
胃・十二指腸潰瘍を予防する食品
潰瘍の原因としては、胃液中の消化酵素ペプシンと塩酸が攻撃因子として強力な消化作用をするのに対し、胃の内壁には粘液などを分泌することで消化から粘膜を守る防御因子があり、この二つの因子のバランスが崩れて起こると考えられています。
胃・十二指腸潰瘍は再発する可能性が高く、再発防止には食事療法や規則的な生活などの改善が必要で、再発するのは性格的や体質的な要因があるともいわれています。
ビタミンU
ビタミンUは胃酸の分泌を抑えるビタミン様物質で、胃腸の粘膜の新陳代謝を促し、回復を早める働きをします。とくに、傷ついた粘膜の修復には良質なタンパク質が必要ですが、このタンパク質の合成を促進する核酸をつくるのに不可欠な栄養素です。ビタミンUが多く含まれる食品では、キャベツをはじめ、レタス、セロリ、アスパラガスなどの野菜や、青のりにも含まれています。ただし熱に弱いため、生でとるほうが効果的です。
リノール酸
リノール酸は胃液の分泌量を調整したり、胃粘膜の内壁を丈夫にするはたらきがあります。リノール酸は体内でγ-リノレン酸を経て、生体各組織の機能を調節するプロスタグランジンの原料になります。
ビタミンA
ビタミンAは胃の粘膜を潤わせて保護する粘液の分泌を促し、粘膜を健康に保ちます。
ビタミンE
ビタミンEは、過酸化脂質を生成する活性酸素からの害を防ぎ、胃潰瘍や脳卒中などの成人病を予防するはたらきがあります。
控えたい食品
食物を消化する器官が傷んでいるわけですから、胃腸の負担を軽くするためにも、塩分が多かったり、消化しづらい食品は控えます。即席中華めん、塩ざけ、いか塩辛などの塩分を多く含む食品や、ごぼう、きのこ、いも類などの水に溶けない食物繊維の多い食品は、消化が悪いので控えます。また、胃酸の分泌を活発にするコーヒーやアルコール類、炭酸飲料、香辛料、レモンなど、酸味や香りが強い食品は避けるようにします。