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執筆者の写真みそら薬局

LINEで処方箋受付中の流山おおたかの森にあるみそら薬局からお知らせです。


新シリーズとして患者様にわかりやすい疾患の説明を載せていきたいと思います。

過敏性腸症候群

かびんせいちょうしょうこうぐん

〔消化器科・内科〕

 ストレスがなどが引き金になり、自律神経のバランスがくずれ、それが腸の働きに影響し、下痢や便秘などの便通異常を起こすものです。腸を調べても、なんの異常もみつからないのに、腹痛や腹部の不快感を起こし、下痢や便秘を繰り返します。下痢か便秘、どちらか一方だけ起こる場合と、両方が交互に起こる場合があります。

 日本ではこの病気は、消化器に不調を訴えて医療機関を受診する人の10~30%、腸の病気全体では30~50%を占めるとされています。女性は20代と50代、男性は30代に多く、年齢的に最もストレスを抱えやすい世代に発病が集中しているという見方ができます。

 とくにうつ傾向の強い人や神経症的なタイプの人に多く発症し、男女比では、若干女性のほうが多めです。男性には下痢になるタイプが、反対に女性は、便秘になるタイプが多くみられます。

 治療には、症状そのものを改善させるとともに、心理的な側面からの治療も必要です。

原因

 原因を説明する前に、まず腸がどのようにして動いているのかを簡単に説明しましょう。

 内臓は私たちが意識的に動かしているのものではありません。内臓の動きは自律神経がコントロールしています。自律神経には、交感神経と副交感神経とがあります。消化管を例にとれば、その働きを活発にするのが交感神経で、働きを抑えるのが副交感神経です。この2つの自律神経は、本来はバランスをうまくとりあって、体の状態や時間帯に合わせて、内臓の動きを制御しています。ところが、この自律神経は精神状態に大きく左右されやすい性質があります。

 自律神経をつかさどっているのは、脳の視床下部という部位です。この隣に、自律神経の働きを乱す要素をもった、大脳辺縁系と呼ばれる場所があります。大脳辺縁系では、人間の感情、とくに不安や怒り、意欲などをコントロールしています。私たちがストレスを受けたり、不安になったり、イライラしたりすると、大脳辺縁系が刺激されます。この刺激が隣の視床下部にも影響を与え、自律神経の働きを乱すのです。

 その結果、本来なら、腸の働きを抑えなければならない場合でも交感神経の作用が強くなり、腸が働きすぎることによって、内容物がどんどん通過していってしまい、下痢を起こします。反対に、腸の働きを促進させなければいけない場合に、副交感神経が強く働いてしまうと、腸には内容物が滞り、便秘を起こすのです。

 さらに胃や腸などの消化管には腸壁神経系があり、腸の動きに影響を与えています。自律神経とも無関係ではなく、補完的な役割をしています。胃や腸などが他の臓器よりもストレスを受けやすいのは、自律神経と、この腸壁神経系という2つの神経にその働きを支配されているためです。

 ここで、腸がどのように働いて便をつくっているのかを説明しておきましょう。腸には胃結腸反射という働きがあります。これは食べ物が口から入り、胃が動きはじめると、結腸に蠕動運動という内容物を先に送り出す動きが起こるというものです。これによって排泄すべき内容物が肛門に近い直腸へ移動し、便意が起こるのです。

 時間を追って説明すると、口から入った食べ物は、まず小腸で消化吸収されます。水分が少しずつ吸収されながら適当な硬さになって食後4~6時間ほどで大腸の入り口まで到達します。そして、上行結腸を通って横行結腸に送られ、半日ほどかけて、直腸の上、S状結腸にいたり、1日から3日ほどで便になって排泄されます。

 自律神経がバランスを崩すと、この便をつくる過程に乱れが生じてしまうのです。

症状

 典型的な症状は、慢性的な、期間でいうと数ヶ月単位で、腹痛をともなって便秘や下痢が起こる、または、その両方が繰り返される症状です。とくに食後にこれらの症状が強く出ることが多いようです。これは、原因のところで説明したように、食べ物が胃に入ることで腸の働きが促されるからです。このほかに、おならが出る、おなかが鳴る、腹部膨満感、げっぷなどを訴える人もいます。

 そして、この病気で特徴的なのは、こういった腹部の異常に加えて、頭痛や動悸、肩こり、月経不順、不眠、不安感など、自律神経失調症や精神神経症状を伴うことです。

 排便の異常は、下痢と便秘を交互に繰り返すタイプと、主にどちらかだけを起こしやすいタイプがあります。下痢になるか便秘になるかは、腸のどの部分の機能が障害を起こすかによって決まってきます。肛門により近い、下行結腸が緊張したり、運動が活発になりすぎると、便秘になります。便が出たとしてもウサギの便のような小さくて硬いコロコロした便や、鉛筆のような細い便です。一方、体の位置でいえば右側、上行結腸の部分の機能が活発になりすぎたり、緊張したりすると、まだ水分を多く含んだ便がそのまま運ばれていくことになり、下痢になるのです。

 主に下痢を頻繁に起こすのは、男性です。俗にいう、下痢をしやすいものを食べたかどうかとは無関係に、下痢が続いたり、軟らかい便と下痢を周期的に繰り返します。この下痢型の過敏性腸症候群は、突然便意をもよおす傾向にあり、電車に乗っても、一駅ごとに降りなければならなくなるなど、社会生活に影響が出るケースもあります。ただし、下痢が続くわりには体力が落ちることがないのが、この病気の特徴です。

 もう1つの便秘型の過敏性腸症候群は、女性に多くみられます。女性は、便意をもよおしても、我慢してしまうことが多々あり、その繰り返しが結果的に便秘を起こしているという説もあります。便が出たとしても、ごく少量で、残便感が残り、すっきりしません。

検査/診断/治療

 まず最初に、この病気と症状が似通っている他の腸疾患、大腸がんや潰瘍性大腸炎、クローン病、大腸憩室炎、虚血性大腸炎などではないことを確認します。次に、バセドウ病など、内分泌系の異常でも下痢が起こるのでその可能性も視野に入れ、検査をします。これは、過敏性腸症候群自体に、特別な菌や組織、病変があるわけでなく、病気を確定する確実な診断方法がないからです。

 他の病気の可能性を調べるためには検便、血液検査、肛門から腸に指を入れて触る直腸指診、大腸の内視鏡検査、肛門からバリウムなどの造影剤を入れてエックス線検査を行う注腸エックス線検査などを行います。

 これらの検査をして、他の病気である可能性がなくなり、過敏性腸症候群と診断された時点で、神経症のテストや、性格テストなどを実施し、症状の背景にある心理的要因を探ります。また、幼少時から、精神的な負担やストレスがかかると下痢や便秘になるなどの傾向があったことが確認できる場合もあります。

 さて、過敏性腸症候群に、特別な治療法はありません。症状を抑えることが治療の中心になりますが、症状を完全になくすことを目指すよりは、心理的な側面も含め、症状をどうコントロールしていくかを探ることが重要です。

 対症療法として、消化管の運動機能を調整する薬や副交感神経の働きを遮断する働きのある抗コリン薬、心理的な面を補う意味で抗不安薬などの薬物治療が可能です。しかし、薬はあくまでも補助的な役目で、本人が症状を軽減させるために、原因となるストレスとうまく付き合っていく方法をみつけることが基本になります。

 この病気の場合、症状が好転しないために、病院を転々とする人がいますが、本人の気性が病気に大きく影響している部分もあるので、即効性は求めないで、あせらず、じっくり治していく気持ちを持つようにしましょう。

生活上の注意点

 この病気は、患者本人が、病気とどううまく付き合っていくかが大きなポイントとなります。ですから、本人や家族が病気の内容をよく理解し、腸の不調の原因となる要素を上手に取り除きながら生活を送ることが大切です。

 ただし、あまり神経質になるのは逆効果です。決して重篤な病気ではないので、楽観的に病気と付き合うようにしましょう。

 基本的には、体や気持ちに負担がかからない、規則正しい生活を送るようにします。食事は栄養バランスのいいものをとるよう心がけます。便秘の傾向が強い人は、野菜や豆類など、食物繊維の豊富な食品を意識的にとり、下痢傾向の人は、冷たいものやアルコールは控えるのが無難です。排便を規則正しくするように心がけます。参考までに過敏性腸症候群によい食品をあげます。

 下痢型に限らず、アルコールやタバコは、症状を悪化させることがあるので、極力避けたほうがいいでしょう。これらが息抜きになっている人は、他の病気を防ぐ意味でも、この際、もっと健康的な方法でストレスが解消できる方法を探す努力をしてみるのもいいと思います。趣味を新たにみつけたり、自分の気持ちをうまくコントロールするための一つの方法でもある自律訓練法などもおすすめです。

 あとは、適度な運動と睡眠を取って、ストレスをできるだけ軽減させることです。現代人にストレスはつきもので、まったく排除することは無理です。少々のストレスは人間に意欲を与えるものなので、神経質にならず、自分なりにストレスと上手に付き合う方法をみつけるようにしましょう。

過敏性腸症候群によい食品

 食事療法では現れる症状に合わせた食品の摂取が大切です。まず、下痢や腹痛がある場合は、腸に影響のある牛乳や乳製品、アルコール、カフェイン、炭酸飲料などは避け、きのこや豆類、野菜などの食物繊維も腸を刺激するため控えます。一方、便秘の場合は、逆に便通をよくするために、食物繊維の食事制限は緩和し、バナナやりんご、パイナップル、煮野菜などが有効です。

 ただし、食物繊維はとりすぎると腸を刺激するので注意が必要です。食事療法も、神経質になるとストレス要因になるため、ゆとりある食生活を送るようにしましょう。

食物繊維

 食物繊維は、腸の機能を高める効果的な栄養素ですが、過敏性腸症候群は、腸が過敏になって発症する病気なので、症状に合わせて摂取するようにします。下痢ぎみの場合は控えめにし、逆に便秘の場合は改善する効果があるます。ただし過剰にとると腹痛や下痢の原因になります。そこで、効果的に取り入れたいのが、便秘にも下痢にも効く水溶性食物繊維です。食品では、りんごやバナナ、にんじん、いちごなどのほか、海草類にも多く含まれています。

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